不動産物件の火災では、数千万円を超える損害になる場合があるため、保険への加入は欠かせません。
賃貸物件では、オーナーと入居者、ともに火災保険に加入します。それぞれの火災保険について確認しましょう。
また、入居者に保険加入してもらうことは、入居者を守ることにもつながります。契約更新のし忘れなどがないよう、保険の内容と加入状況をしっかり把握しておくことが大切です。
火災保険の種類
アパートオーナーなら当然、気にかけなくてはならないものの1つに「保険」があります。最近ではさまざまな保険事故に備える「総合保険」に加入するケースも増えていますが、この総合保険の主体となっているのも火災保険です。
火災保険とは、火災や自然災害によって生じる、建物自体や、建物の中にある家具や家電製品といった家財の損害を補償する保険のことをいいます。現在の火災保険は、落雷や強風、雹(ひょう)など、多くの自然災害が補償の対象となっています。
火災保険の商品の内容は、保険会社によってさまざまです。とはいえ、その成り立ちから火災保険には基本的に、「建物を保険の対象とするもの」と「家財を保険の対象とするもの」の2つがあります。
持ち家の場合は、その両方をカバーするように保険加入しなくてはなりません。そして、賃貸物件の場合には、オーナーが「建物」を、入居者が「家財」を補償する保険に、それぞれ加入するのが一般的です。
入居者向けの火災保険
まず、賃貸の場合、入居者はその建物の所有者ではありませんので、所有者であるオーナーが「建物」の保険に入ります。入居者が加入するのは、そこにある自分の所有物である「家財」を守るための保険です。
しかし原則としては、民法の定めるところにより、入居者(借主)は、賃貸物件を原状回復して貸主に返却しなければなりません。つまり、借りたものは元通りの状態にして返すということです。そうでなければ、貸主は借主に対して損害賠償を請求できる、とされています。これは、入居者の故意なのか過失なのかに関わらず定められた賃貸契約における基本的なルールです。
入居者は、こうした民法の原状回復義務などをふまえ、きちんと保険に加入しておかなければなりません。火災にあった賃貸物件を元通りにして返すためにかかる費用は高額です。火災に限らず物件にある程度以上のダメージを与えた場合、もし原状回復できなければ、債務不履行としてオーナーから損害賠償を請求されることになるでしょう。
このような場合に備えて保険会社が用意しているのが、火災保険のオプションとして契約できる「借家人賠償責任特約」です。
この特約において保険金の支払い対象となるのは、失火だけではなく次のような項目も含まれます。
- 台所や浴室まわりの設備の故障による漏水、放水
- 盗難の被害で、ドアや床、壁、天井を壊されたとき
- ガスの爆発や落下物による破壊
ただし、この特約は、故意に火をつけたり、本人に重大な過失があったりする場合には、保険金は支払われません。
入居者が入るべき火災保険としては、このように、「家財の火災保険プラス借家人賠償責任特約」というのがスタンダードなものといってよいでしょう。賃貸契約を結ぶときには、この2つの火災保険の加入を必須条件として定めているオーナーや不動産業者もいます。
オーナー向けの火災保険
オーナーにとって、新築時または購入時から「建物」を火災保険の対象とすることは、賃貸経営の基本です。
前述のように、入居者には原状回復義務があり、怠った場合、オーナーは損害賠償請求をすることができます。とはいえ、現実をみれば、入居者に損害賠償を請求するためには時間も労力もかかるでしょう。
請求をしたところで、もし入居者が保険に入っていなければ支払い能力がどれだけあるかわかりませんし、保険に入っていたとしても、その手続きには短くても数か月はかかるでしょう。しかし、オーナーとしては、物件が火災にあったとしたら、できる限り最短でダメージを修復して住める状態に戻し、速やかに賃貸を再スタートして空室状態を脱したいところです。
そのためには、ひとまずはオーナー自らの保険で原状回復費をカバーできるようにしておくことが賢いリスク回避法となります。
前述のように、火災保険は落雷や竜巻といったさまざまな自然災害が補償の対象となっていますが、物件の所在地によって各種の災害が起こるリスクの高さには違いがあります。リスクに応じた補償内容を取捨選択することで、無駄な保険料を省きましょう。
一戸建てやアパート・マンション一棟のオーナーであれば、建物全体を保険の対象とします。また、マンション等の一部を区分所有する場合は、オーナーは専有部分のみを保険の対象とし、共用部分はマンションの管理組合等が保険を整備します。
この場合、たとえば管理組合が火災保険だけで地震保険の契約をしていないといったことがありますので、修繕積立金の状況とともに共有部分の保険内容の把握が必要です。
補償範囲は、保険の種類や各保険会社によって違いがありますので、どこまでが補償の範囲なのかをしっかり確認しましょう。
火災に関するトラブルについて
それでは、契約時に火災保険に入ったら、それで安心してよいかというと、そういうわけではありません。保険の契約期限切れなどのトラブルが生じることも考えられます。
入居者の火災保険が切れていた場合
入居の際には、入居者が賃貸契約の手続きとともに火災保険に入るのが一般的です。しかしその後、入居者が火災保険を継続せず、保険が切れた状態のままにしていたらどうでしょうか。
その状態で火災が発生したら、入居者に損害賠償を請求しても即座の支払いは見込めません。そのため、オーナーの保険で修理して、その保険会社が入居者に修理代を請求するという段階を踏むことが考えられます。この場合、加入している保険にもよりますが、事故後の自動車保険と同じように、今後のオーナーの火災保険料が上がる可能性もあります。
いずれにしても、民法に定められた原状回復義務の規定によって、入居者はオーナーからの損害賠償請求に応じなければならなくなるでしょう。このことを知らないで、火災保険が切れていても、そのまま放置してしまう入居者もいるようです。そうなれば、入居者が自費で補償額を支払うという事態になりかねません。
入居者を守るためにも、火災保険への加入は必須とし、保険の契約更新が滞りなくなされるように、しっかりチェックすることが大事です。
延焼による損害を受けたら?失火責任法
入居者が賃貸住宅の火災に関して知っておくべき法律は、もう1つあります。それは「失火責任法」です。
失火責任法では、火災を出した本人(失火者)に重大な過失がない限り、自分が住んでいる物件から失火したときも、近隣からの延焼で損害を受けたときも、誰にも損害賠償責任は発生しないこととされています。
失火責任法は1899(明治32)年の制定。当時はほとんどの建物が木造で、一度火災が起きると近隣に大きく燃え広がるのは当たり前のことでした。失火者にそれを賠償させることは不可能だったことからこのような法律が成立し、そのまま残っているというわけです。
この法律によれば、近隣が出した火災に自宅が巻き込まれたときには、誰からも補償してもらえません。つまり、火災から身を守るためには、自分で備えておかなければならないのです。
それどころか、失火責任法がこのような内容になっていても、賃貸住宅には民法の原状回復義務があります。ですから、借りている物件が近隣からの延焼によって火事になったとしたら、それをオーナーに弁済するのは入居者本人です。
その点、火災保険の「借家人賠償責任特約」は、火事だけでなく漏水なども補償内容に含まれ、また、自分が失火して近隣に損害を与えた場合にも補償されます。
なお、重大な過失がある場合というのは、次のようなケースです。
- 寝たばこなど、たばこの火の不始末で火災が起こったとき
- 暖房器具を異常な使用方法で使ったために火災が起きたとき
- コンロに長時間、油の入った鍋をかけておいたために火災が起こったとき
このように入居者には、自らの失火と近隣からの延焼、そしてオーナーへの賠償に備えて、少なくとも家財の火災保険プラス借家人賠償責任特約に加入しておくことが推奨されます。
入居者の過失をカバーする保険
失火した人に重大な過失があった場合にも賠償金の支払いがあるものに、個人賠償責任保険(特約)があります。保険金が支払われるのは、たとえば次のような場合です。
- 失火者に過失があって火災を起こして近隣に損害を与えたとき
- 誤って他人の所有物を壊してしまったとき
- 他人にケガを負わせてしまったとき
この保険では、家族の中で誰か一人が加入していると、家族全員が加入しているものとして扱われます。
地震保険について
このほかに、火災保険の特約として契約するものとして地震保険があります。
地震保険は、居住用の建物や家財が地震、噴火またはこれらによる津波によって損害にあったときに補償される保険です。
火災保険では、地震、噴火、津波による損害には保険金が支払われません。特に気をつけなければならないのは、地震が原因で生じた火災は、火災保険では補償されないという点です。その場合は、地震保険からの支払いとなります。
大地震が起きたときに備えるため、地震保険は「地震保険に関する法律」に基づいて、政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険となっています。このため、補償内容や保険料はすべての損害保険会社で共通して、ほとんど同じ内容です。
オーナーが加入する保険としては、建物全体の火災保険や地震保険などがあり、また、入居者が加入する保険としては、家財の火災保険プラス借家人賠償責任特約、さらにオプションとして個人賠償責任保険(特約)などがあります。
また、保険が切れて自費での対応とならないように、契約期間にはよく注意しましょう。