不動産投資で事故物件になった場合の告知義務はいつまで?

不動産投資で事故物件になった場合の告知義務はいつまで?

不動産投資は、毎月の安定した家賃収入が得られることから、「ミドルリスク・ミドルリターン型」と言われています。株などのペーパーの資産ではなく、リアルな資産なので“無くなってしまうことがない”というのも人気の理由です。

一方、「空室リスク」もあります。不動産投資をこれから始めたい方や、ビギナー投資家は、このリスクを熟知していれば万全の経営ができます。ここでは長期空室の原因と、「事故物件」について解説します。

資産価値を下げる「事故物件」に注意

この記事の前半では、「事故物件になると、どれくらい価値が下がるのか?」について解説します。合わせて、下がった価値をカバーする方法も紹介します。

「事故物件」にあてはまるケースは?

不動産業界では、入居者が自殺または他殺で(自宅・自室で)亡くなった物件を「事故物件」と呼んでいます。「事故物件」は、長期空室になったり、売却が難しくなったりすることで、資産価値が大きく損なわれる可能性があります。

通常の病死(自然死)の場合は、「事故物件」になりません。しかし、「ずっと発見されず白骨化した場合」は、「事故物件」になるのではないかという意見もあります。

また、火災も「事故物件」に該当するという意見が多いです。とくに死者が出た火災は神経質になる必要があります。火災が発生した土地で建物を建て直し、過去に火災があったことを告知せずに売却したところ、裁判で争われたというケースもあります。

「事故物件」で資産価値はどれくらい下がる?

「事故物件」になると、インカムゲイン(毎月の家賃収入)で見ても、キャピタルゲイン(売却による損益)で見ても、資産価値が大きく下がる可能性があります。

インカムゲインでは、家賃を大幅に下げても入居者が見つからないケースがよくあります。キャピタルゲインでは、価格を極端に下げても買い手が見つからないケースもあります。

そのため、事故物件になった時に「これくらい資産価値が下がる」という目安はありません。事故物件でも、「借りたい、買いたい」という方に出会えれば最小限の価値損失ですみますし、そうでない場合は、どこまでも値下げするしかありません。

しかし、たいていの場合は価値が大きく損なわれます。とくに凄惨な殺人事件の現場になった物件は、資産価値が大きく下がることが予想されます。

下がった資産価値は保証人に請求できないの?

入居者が自殺したことで、オーナーがこうむる損害を、連帯保証人にカバーしてもらうという考え方もできます。補てんの内訳は、「現状回復の費用と逸失利益の合計」になります。

「現状回復費」については実費なので分かりやすいです。事件が起こった部屋の特殊清掃・壁紙交換・フロア交換などの費用が該当します。

難しいのは「逸失利益」の方です。どれくらいの期間の損害を、どのような考え方によって請求すればよいか明確な基準はありません。

遺品整理に特化した「第八行政書士事務所」の公式サイトでは、具体的な補てんの額について、「1年間分の家賃(全額)と2年間分の減額した家賃との差額といった判断がされることがあります」と解説しています。これは過去の裁判の判例を根拠にしたものなので参考になります。

ただし、亡くなった入居者のご家族が相続放棄をした場合は、損害を請求することができません。保証会社で契約していた場合は、約かんの内容に沿います。

事故物件の告知義務はいつまで?どこまで?

「事故物件」は、売却の時は買い主に対して、賃貸の時は借り主に対して告知義務があります。告知義務とは、過去に自殺や殺人事件があった事実を「契約前に伝えること」を言います。

この告知義務を怠って、後に裁判で争った場合は、契約が破棄されたり、価格の一部の返還を求められたりする可能性があるので要注意です。

瑕疵担保責任は半永久的に効力がある

告知義務をしなければならない根拠になるのは、「瑕疵(かし)担保責任」です。瑕疵とは一般の人にはなかなか分からない欠陥のことです。不動産の売買(または賃貸)で瑕疵があった場合、買い主(または借り主)はオーナーに対して責任を追及できます。

瑕疵には、白アリ発生や雨漏りなど目に見える「物理的瑕疵」と、自殺物件のような目に見えない「心理的瑕疵」があります。「物理的瑕疵」と「心理的瑕疵」のどちらも、買い主(または借り主)への告知義務があります。

どれくらいの期間、告知義務があるのかですが、民法では、「瑕疵の発見」から「瑕疵の責任を問える期間」を1年以内と定めています。ここだけ見ると短い期間のように感じますが、「引き渡し」から「瑕疵の発見」までの期間に制限はありません。

極端にいえば、事故物件であることを隠して売却し、30年後に「瑕疵が発見された」場合、発見から1年以内だったら責任を問えるということです。

つまり、民法をもとにすると、いったん「事故物件」になってしまうと半永久的に告知義務があることになります。しかし、それはいくらなんでも現実的でないので、オーナーや仲介業者の“常識的な判断”で告知期間を決めているというのが実状です。

賃貸の場合も「告知義務」は必要

たまに、売買契約の場合は「事故物件であることの告知義務が必要」、賃貸借契約では「告知義務が不要」と勘違いしている方がいますが、どちらも告知義務があります。

その根拠となるのは、「民法570条、566条の準用」であり、不動産業界最古の歴史を持つ、全国的団体『全日本不動産協会』の公式サイトでは次のように解説されています。

売買契約等と同様に、オーナーは、借主に対し、瑕疵担保責任(民法570条、566条の準用)に基づき、損害賠償責任を負担し、更には、契約の目的が達成されないと判断される場合には契約の解除を求められます。

【出典:公益社団法人 全日本不動産協会】

告知義務の範囲はどこまで?

次に、自殺や事故が起こった場所から、どれくらいの範囲が「告知義務」の対象になるのかを考えていきます。

例えば、マンションの一室で事故が起きた場合、その部屋が「事故物件」扱いになるのは当然です。問題は、隣の部屋や上下階の近接した部屋、あるいは同じマンションの別の部屋も「事故物件になるのか」という点です。

この告知義務の範囲については、明文化された規定はありません。また、不動産業界内に様々な考え方があります。その一例として、『全日本不動産協会』公式サイトでは次のような解説がされています。

一般人としての個別的な感覚とは別に、建物や土地の瑕疵をいうのは当然その対象物件であり、その周辺や近隣における同様の嫌悪事情は該当物件の瑕疵とはなりません。

【出典:公益社団法人 全日本不動産協会

つまり、近接した部屋や共用部で起こった事故は、「告知義務の範囲に含まれない」というわけです。

これは信頼性の高い業界団体の公式な情報なので参考になります。その一方で、不動産業界や法律の専門家の間では、事故があった場合、マンション全体が事故物件になるのではないかなど、様々な考え方があることに留意しておく必要があるでしょう。

「事故物件」は不動産投資のリスクになりますが、必要以上に恐れる必要はありません。ただし、事故物件になった時、あるいは、事故物件になる可能性がある時は、法律の専門家に相談した上で慎重に契約を進める必要があります。この部分をしっかりすることで、たとえ事故物件になっても最小限のリスクに抑えることができるでしょう。